コラム

見積金額の組み立て方と、値付けが赤字になる4つのパターン

「規模から考えてこのくらい」「前回A社に出した金額に合わせて」。見積の金額をこの決め方で出している会社は少なくありません。

受注はできても利益が残らないのは、この決め方が原因です。相場にも前例にも、いまの自社の原価は入っていません

見積は原価と必要な粗利から組み立てます。相場は、組み立てた金額が通るかを見る材料で、金額を作る材料ではありません。

相場は、出した金額を判断するための材料

「この規模なら300万円くらい」という感覚は、過去の受注と失注の記憶から来ています。役に立つのは、組み立てた金額で受注できるかを見るときです。

相場から金額を作ると、2つのことが分かりません。その金額で粗利が残るか、残らない場合に何を変えれば残るかです。

原価から組み立てた金額なら、どちらにも答えが出ます。相場より高いと分かったときも、工数・外注比率・対応範囲のどれが原因かが内訳から読めます。下げる交渉に入る前に、下げられる場所が分かります

前例も同じです。前回の金額は前回の原価に対して決めたもので、賃上げや外注単価の改定を挟めば前提が変わっています。既存の取引の金額を上げ直す手順は値上げの根拠を原価から作る手順と、価格転嫁が止まる4つの原因に整理しています。この記事は、これから出す見積の組み立てに絞ります。

見積を組み立てる5つの手順

  1. 作業を分解して工数を見積る — 工程ではなく作業の単位まで下げる。1行が40時間を超えるなら分解が足りない
  2. 時間単価をかけて労務費を出す — 職種や等級ごとに決めた社内の単価を使う。案件ごとに変えない
  3. 外注費と直接経費を足す — 発注の見込み額、交通費、材料費、サーバー費用、ライセンス費。ここまでが原価
  4. 必要な粗利率から売価を逆算する — 原価に率を掛けるのではなく、原価を 1 − 粗利率 で割る
  5. 不確実な部分を分けて明示する — 調べないと分からない範囲は、金額に混ぜず別枠にする

時間単価は所与のものとして使います。賞与・法定福利費・稼働率を含む単価の作り方は前の節でリンクした記事にあるため、ここでは4,800円で計算します。

3までを通した原価は、次のような形になります。

  • 労務費 — 500時間 × 4,800円 = 240万円
  • 外注費 — 60万円
  • 直接経費 — 10万円
  • 原価の合計 — 310万円

この310万円から売価を作るのが4の手順です。ここを間違えると、他が正しくても粗利は足りません。

必要な粗利率は、掛け算では確保できない

原価310万円の案件で粗利率25%を確保したい。ここで 310万円 × 1.25 = 387.5万円 と計算すると、確保できるのは25%ではありません。

計算提示金額原価粗利粗利率
原価 × 1.25387.5万円310万円77.5万円20.0%
原価 ÷ (1 − 0.25)約413.3万円310万円約103.3万円25.0%

粗利率は売価に対する比率です。原価に1.25を掛けた金額では、粗利は原価に対して25%です。売価に対しては 77.5万円 ÷ 387.5万円 = 20.0% です。

差は25.8万円です。1件では小さく見えますが、この誤りは全案件に同じ方向で効きます。粗利率25%を掛け算で出している会社は、実際には20%で仕事を受けています

原価に掛かる倍率は次のとおりです。

  • 粗利率20% — 原価 ÷ 0.8(原価の1.25倍)
  • 粗利率25% — 原価 ÷ 0.75(原価の約1.333倍)
  • 粗利率30% — 原価 ÷ 0.7(原価の約1.429倍)

必要な粗利率は、業種の平均ではなく自社の固定費から決まります。決め方は案件別の粗利を出す手順と、集計が合わなくなる3つの原因に整理しています。

見積工数は、作る時間以外が落ちる

分解の粒度から決めます。「設計」「実装」「テスト」の3行で見積ると1行が100時間を超え、何が入っているかを後から確認できません。1行が40時間以内に収まるまで下げます。

粒度を下げても落ちる工数があります。いずれも見積書の項目として立てにくい作業です。

落ちやすい工数発生する場面落ちる理由
要件の確認着手前提案活動の延長として扱っている
レビュー・検証各工程の終わり作る時間だけを積んでいる
打合せ・報告期間中1回1時間でも、週次なら期間分が積む
手戻り仕様変更・不具合発生しない前提で見積っている
環境の準備着手時アカウント発行や環境構築が作業として見えない
検収対応納品後納品した時点で終わった扱いにしている
資料作成納品時納品物の一覧に手順書や引き継ぎ資料が無い

この7つは1つずつでは小さく、合計で初めて効きます。どれだけ乗るかは案件の種別で違うので、推測ではなく自社の実績から出します。出し方は後述します。

手順の5つ目にあたる不確実な範囲は、工数に混ぜません。調べないと分からない作業は見積を2段に分けます。調査だけを先に受注して金額を確定し、本体は結果を見て出す。1つの見積に押し込むと、多く積めば失注し、少なく積めば赤字です。

値付けが赤字になる4つのパターン

1. 粗利率を掛け算で出している

前の節の 原価 × 1.25 です。気づかないまま全案件に同じ方向で効くため、影響が最も大きいパターンです。見積の様式に計算式が埋め込まれていると、誰も検算しません。

確認は、見積書のひな形で粗利率の欄がどの式になっているかを見るだけです。掛け算なら、その様式で出した見積はすべて目標を下回っています。

2. 工数の見積が楽観になっている

前の節の7項目が落ちている状態です。原価310万円・提示413.3万円で組んだ案件が、見積500時間に対して実績610時間になった場合です。

労務費は 610時間 × 4,800円 = 292.8万円 に増え、原価は362.8万円になります。粗利は50.5万円、粗利率は12.2%です。工数が22%増えただけで、粗利率は25.0%から12.2%へ半分以下に落ちます

労務費の比率が高い案件ほど、工数の誤差は粗利に直接出ます。

3. 値引きを粗利から丸ごと出している

「10%なら」と応じるとき、減るのは売上の10%です。原価は変わりません。減った分はすべて粗利から出ます。

項目値引き前10%値引き後
提示金額500万円450万円
原価400万円400万円
粗利100万円50万円
粗利率20.0%11.1%

粗利率20%の案件では、10%の値引きで粗利が半分になります。減った50万円を取り戻すには、同じ粗利率20%の案件を 50万円 ÷ 20% = 250万円 分だけ追加で受注する必要があります。値引きした金額の5倍です。

順序は、値引き率を答える前に値引き後の粗利率を計算することです。下限を先に決めておけば、応じられる幅はその場で出ます。

4. 作業範囲を書いていない

見積書に金額だけが並び、含む作業と含まない作業が書かれていない状態です。追加作業を断る根拠がありません。

「これも範囲だと思っていた」と言われたとき、書いていなければ受けることになります。40時間の追加で 40時間 × 4,800円 = 19.2万円 の原価が乗り、粗利103.3万円の案件では2割近くが消えます。

範囲は、含むものより含まないものを書くほうが効きます。含むものの列挙は漏れが出ますが、除外事項は争点になりやすい項目だけで足ります。

一式見積をやめる範囲は、数量が動くかで決まる

内訳をどこまで出すかは、2つの失敗の間で決めます。全部出すと行ごとの単価交渉になり、1行ずつ削られて合計だけが下がります。全部隠して「一式」にすると、追加作業が出たときに範囲の内と外を示せず、追加請求ができません。

分ける基準は数量です。

  • 数量が動く項目は単価と数量を出す — 人数、台数、拠点数、データ件数。動けば金額が変わることを、見積の時点で合意しておく
  • 一体で完成する作業は工程単位の金額で出す — 時間の内訳までは出さない。出すと工数の妥当性の議論になり、決まるまでの時間が延びる
  • 作業範囲と除外事項は必ず書く — 内訳を出さない場合でも、範囲は書く
  • 前提条件と有効期限を書く — 前提が崩れたときに、見積を出し直す根拠になる

「一式」でよいのは、数量が動かず、範囲を文章で書き切れる作業だけです。

見積工数と実績工数の差を、次の見積に返す

工数の見積は、経験ではなく実績で精度が上がります。案件の種別ごとに見積工数と実績工数を並べます。

案件の種別見積工数実績工数乖離率次に使う係数
新規開発500時間610時間+22.0%1.22
保守・改修120時間132時間+10.0%1.10
SES1,000時間990時間−1.0%0.99
その他(調査・移行)80時間116時間+45.0%1.45

種別で分けるのは、乖離の出方が違うためです。SESは工数が契約で決まるためほぼ一致し、新規開発と調査は範囲が動くため上に振れます。全案件を平均した1つの係数では、調査案件の乖離が開発案件の中に埋もれます

使い方は単純です。次の調査案件を80時間と見積ったら1.45を掛け、116時間で金額を作る。あるいは80時間で出し、超過分は追加見積の対象として範囲に明記する。

この比較を見ないと、同じ種類の案件で同じ赤字を繰り返します。原因は案件ごとに違って見えますが、種別でまとめると毎回同じ項目が抜けています。

乖離率の列を埋めるには、日々の工数が案件番号に紐づいている必要があります。無ければ、案件別の集計を作るほうが先です。

値引きを求められたときに動かすのは、金額以外

金額を下げれば、下げた分がそのまま粗利から出ます。粗利を守る答えは金額以外にあります。

  • 範囲を削る — 対象の機能、拠点、データの量を減らす。削った分の工数が原価から落ちる
  • 納期を延ばす — 期間に余裕ができれば残業と応援要員が不要になり、原価が下がる
  • 数量か期間を確約してもらう — 継続の見込みが立てば、立ち上げの工数を複数回で回収できる
  • フェーズを分ける — 今期の支出を抑えたい要望なら、契約を分割する。総額は変えない

いずれも下げているのは金額ではなく原価です。原価が下がった分だけ金額を下げれば、粗利率は変わりません。

この4つを出せるのは、原価の内訳が手元にある場合だけです。一式の金額しか持っていなければ、金額を下げる以外の答えが出せません。

Set Plan は見積書を起点に発注書・納品書・検収書・請求書を作成でき、案件ごとに予算と時間単価を持って投下工数を自動で集計します。実績台帳では案件別の工数・原価・粗利率が並ぶため、見積と実績の差を種別ごとに確認できます。現在の見積の作り方をお伝えいただければ、原価から金額を組み立てる形にどこから移せるかをご案内します。

自社の場合はどうなるか、お聞かせください。

Set Plan は見積から請求までを1件の案件でつなぎ、案件別の工数・原価・粗利を一覧できます。 現在の管理方法をお知らせいただければ、移行できる範囲と手順をご案内します。