コラム

案件別の粗利を出す手順と、集計が合わなくなる3つの原因

「会社全体では黒字だが、どの案件で儲かっているか分からない」。受託や工事を持つ中小企業でよく聞く状態です。

決算では粗利が出ているのに案件別で出せないのは、数字が案件という単位で集まっていないからです。集計の手間の問題ではなく、記録の単位の問題です。

案件別の粗利に必要な4つの数字

案件別の粗利は、次の4つが同じ案件番号に紐づいて初めて計算できます。

数字どこから来るか紐づけを外しやすい点
売上請求書複数案件をまとめて1枚で請求している
外注費発注書・仕入発注書に案件を書いていない
労務費勤務記録 × 単価誰が何時間その案件に使ったか記録が無い
直接経費交通費・材料費・サーバー費経費精算に案件欄が無い

粗利は 売上 −(外注費 + 労務費 + 直接経費) です。式そのものは単純で、難しいのは4つを同じ単位に揃えることだけです。

4つが別々のファイルに分かれていて集められない場合は、見積をExcelで管理する限界と、乗り換えを判断する4つの兆候で管理の形そのものを見直す観点を整理しています。

原価に入れ忘れやすい5つの費用

4つの数字を揃えても、次の費用は案件に乗らないまま残りがちです。いずれも発生する時点が案件の始まりや終わりからずれているため、付け先が無くなります。

費用発生する時点落ちる理由
手戻り・不具合の対応納品後案件が完了扱いになっていて、時間の付け先が無い
保守・問い合わせ対応検収後保守が別案件になり、元の案件の実績に戻らない
値引き・端数の調整請求時売上が減っているのに、見積時の金額で粗利を出している
提案・見積作成の工数受注前失注した案件の工数が、どこにも乗らない
案件をまたぐ移動・立会い期間中1回が短く、記録の対象にしていない

上の4つは案件に紐づけられます。失注した案件の工数だけは、個別の案件には乗りません。この分は時間単価の側で回収する費用になります。単価への入れ方は値上げの根拠を原価から作る手順と、価格転嫁が止まる4つの原因に整理しています。

集計が実態とずれる3つの原因

1. 労務費が入っていない

最も多い原因です。外注費と経費だけを原価として集計すると、自社の人員で対応した案件は原価がほぼゼロになり、粗利が実態より大きく出ます

この状態は集計が無い場合より危険です。「この案件は儲かる」という誤った判断が、次の見積の値付けに引き継がれていきます。

労務費を入れるには、時間の記録と単価の設定が必要です。単価は個人別の給与ではなく、職種や等級ごとの時間単価で始めれば十分です。精度を求めて設計を止めるより、粗い単価で回し始めたほうが早く判断材料になります。

時間の記録そのものが続かない場合は、粒度と結果の返し方を見直します。続く形は工数管理が定着しない4つの原因と、続く運用に必要な3つの条件に整理しています。

2. 外注費の計上時点がずれている

発注した月と請求が来た月が違うと、月次で締めたときに原価だけが翌月へずれます。売上は今月、原価は来月という形になり、その案件は今月だけ異常に儲かって見えます。

発注の時点で金額を案件に紐づけておくのが対策です。支払いの実績を待たず、発注額を予定原価として置いておけば、月次のブレは小さくなります。

発注の側の運用は外注費が原価に載らない4つの穴と、発注管理で埋める手順に整理しています。

3. 案件をまたぐ作業が按分されていない

管理業務、社内会議、複数案件に共通する調査。これらを「その他」に寄せると、実際に手のかかっている案件の原価が軽く見えます。

厳密な按分は運用が続かないので、まずは共通作業を集める案件を1つ作り、そこに寄せた時間の総量を把握するだけで十分です。総量が売上に対して大きすぎるなら、按分の設計より先に業務そのものを見直す話になります。

案件別に並べると、平均では見えないものが出る

集計の結果は1枚の表になります。時間単価4,800円で計算した例です。

案件売上外注費労務費直接経費粗利粗利率
保守A120万円0円62.4万円(130時間)3万円54.6万円45.5%
開発B800万円240万円384万円(800時間)30万円146万円18.3%
開発C300万円0円288万円(600時間)12万円0円0.0%
合計1,220万円240万円734.4万円45万円200.6万円16.4%

合計の粗利率16.4%だけを見ていると、粗利がまったく残っていない案件が混ざっていることは読めません。開発Cは保守Aの利益で埋まっています。

この表で最初に見るのは粗利率の低い行ではなく、労務費の欄です。開発Cの288万円は600時間分で、見積の時点で想定していた工数を超えている可能性があります。粗利率は結果で、原因は工数か単価のどちらかにあります。

目標の粗利率は、業種の平均ではなく自社の固定費で決まる

「粗利率は何%あればよいか」という問いには、自社の固定費から答えが出ます。

固定費は案件に紐づかない費用です。管理部門の人件費、家賃、システムの利用料、営業活動の費用。この合計を粗利で回収できなければ、案件が黒字でも会社は赤字になります

年間の固定費が3,600万円、想定する年間売上が2億円なら、必要な粗利率は 3,600万円 ÷ 2億円 = 18% です。18%を下回る案件は、積み上げても固定費を回収できません。

この数字が決まっていると判断が単純になります。下回る案件は値上げか条件変更の対象、上回る案件は同種の案件を増やす対象。業種の平均値と比べる必要はありません。固定費の構成は会社ごとに違うためです。

出た数字で決めることは4つ

粗利が出ても、判断の基準を決めていなければ表を眺めるだけで終わります。案件を4つに分けます。

状態決めること
目標の粗利率を上回っている何が効いているかを見る(単価・工数・外注比率)。同種の案件を増やす
目標を下回るが黒字値上げ、工数の削減、対応範囲の縮小のどれで戻すかを決める
赤字契約更新の可否を判断する。続けるなら理由を明文化する(新規顧客の入口、実績づくりなど)
赤字だが原価の記録に自信が無い記録を先に直す。数字を疑ったまま契約を切ると、実際には良い案件を失う

3つ目の「理由の明文化」が抜けると、赤字案件は理由を失ったまま毎年更新されます。残す判断をした案件は、いつ見直すかも一緒に決めます

月次で回すための最低限の運用

粗利の集計は、精度より継続が重要です。次の3つが揃えば月次で回ります。

  1. 案件番号を先に作る — 見積を出す時点で採番し、以降の発注・勤務記録・経費すべてにその番号を書く
  2. 時間を日次で記録する — 週末や月末にまとめて思い出す形にすると、記録が実態から離れる
  3. 締めの日を決める — 締めた後に来た伝票は翌月へ回す。締めを動かすと前月の数字が変わり、比較できなくなる

このうち1つ目が最も効きます。案件番号が後から付く運用では、番号が無い期間の記録が永久に紐づきません。

入力する人が分かれている点にも注意が必要です。粗利の集計は、1人が全部を入れる形にはなりません。

役割入力するものタイミング
営業・PM案件番号、見積、受注金額見積を出す前
作業者作業時間と案件番号当日
発注担当発注書と案件番号発注の時点
事務請求、経費の案件欄締めまで

入力が止まるのは、自分が入れた数字が何に使われるか分からないときです。集計結果を見せる範囲を決めて、入力した人に戻すところまでを運用に含めます。記録だけを求めて結果を共有しないと、入力は数か月で形式的になります。

EVMまで進めるかの判断

粗利が案件別に出るようになると、次は「進行中の案件が予定どおりか」を知りたくなります。ここで出てくるのがEVM(アーンドバリュー・マネジメント)で、計画価値・出来高・実績コストの3つから進捗とコストの指数を出す手法です。

ただしEVMは粗利の集計が回っていることが前提です。実績コストが取れていない状態でEVMを導入しても、指数の分母が埋まりません。順序としては、案件別の粗利を月次で出せるようになってから検討する対象です。

進捗の測り方とSPI・CPIの読み方は案件の遅れを早く見つける手順と、進捗率が実態とずれる3つの原因に整理しています。

Set Plan は案件を単位に見積・発注・勤務記録・経費を集め、実績台帳で工数・原価・粗利を一覧できます。EVM分析ではPV・EV・ACからSPIとCPIを自動計算します。現状の記録方法をお伝えいただければ、どこから着手すべきかをご案内します。

自社の場合はどうなるか、お聞かせください。

Set Plan は見積から請求までを1件の案件でつなぎ、案件別の工数・原価・粗利を一覧できます。 現在の管理方法をお知らせいただければ、移行できる範囲と手順をご案内します。