コラム
工数管理が定着しない4つの原因と、続く運用に必要な3つの条件
「工数を入力する運用にしたが、3か月で誰も入れなくなった」。工数管理を始めた会社の多くが通る状態です。
もう一つよくあるのが、入力は続いているのに数字が使えない状態です。合計が実労働時間と合わず、集計を出しても判断の材料にならない。
どちらも入力する人の姿勢の問題ではありません。原因は記録の設計にあります。
粒度をどこまで細かくするか、集計結果を誰に返すか、記録を何に使うと宣言するか。この3つで決まります。
労務費は工数の記録からしか出ない
案件の原価は外注費・直接経費・労務費で構成されます。このうち労務費は 工数 × 時間単価 でしか出ません。
記録が無い会社の原価は、外注費と経費だけになります。自社の人員で対応した案件は原価がほぼゼロになり、粗利が実態より大きく出ます。
売上・外注費・労務費・直接経費を案件単位で揃える手順は案件別の粗利を出す手順と、集計が合わなくなる3つの原因に整理しています。ここでは、その4つのうち労務費だけを取り上げ、記録が続く形を扱います。以下の計算では時間単価を4,800円とします。
工数管理が定着しない4つの原因
止まるときの原因は、ほぼ次の4つに収まります。いずれも運用の設計側で作られたもので、順番に外していけます。
1. 粒度が細かすぎる
最も多い原因です。作業種別(設計・実装・試験)まで分けさせる、15分刻みで入れさせる、1日を複数行に分割させる。
粒度を細かくすると、入力に必要な思い出しの量が増えます。1行で済んだ記録が3〜5行になり、それぞれに時間を配分する判断が発生します。
分けた分だけ集計の解像度は上がります。ただし解像度が上がるのは記録が続いている間だけです。止まった時点で、それはゼロになります。
対処は粒度を落とすことです。案件と時間だけを入れる形に戻し、作業種別は記録しない。工程別の生産性は、記録が数か月続いてから検討する対象です。
2. 入力した人に返るものが無い
集計結果を管理側だけが見ている状態では、入力は数か月で形式的になります。入力する人にとって、その作業は自分の仕事に何も返していません。
対処は返す仕組みを先に作ることです。案件別の投下工数、見積工数との差、自分の入力の抜け。金額を見せられない相手であっても、時間の情報だけなら共有できます。
返すものが無いまま入力を求めると、記録は「求められたから埋める数字」になります。入力が続いていても、数字は実態から離れていきます。
3. 週末や月末にまとめて入力している
入力の頻度を落とすと1回あたりの手間は減ります。代わりに記録が思い出しになります。
3日前の作業配分は思い出せません。思い出せない部分は、切りのよい数字で埋められます。8時間を4時間と4時間に分けた記録が並び始めたら、それは実態ではなく整えた数字です。
対処は当日入力に固定することです。当日なら思い出しは発生せず、入力は数分で終わります。
ただしこれは粒度を落とすこととセットでしか成立しません。細かい記録を毎日求めれば、止まる時期が早まります。
4. 評価や残業の管理に使われると疑われている
目的を伝えずに記録を求めると、入力する人は用途を推測します。推測される用途は「作業の遅い人を特定する」「残業を抑える材料にする」のどちらかです。
疑いが生じると、記録は実態より短い方向にずれます。時間のかかった作業を短く申告する、手戻りの対応時間を記録しない。ずれの方向が一定なので、集計しても補正できません。
対処は用途を先に限定して伝えることです。
続く運用に必要な3つの条件
1. 粒度を落とす
1日1回、案件単位、30分刻み。この3つを上限にします。
1人あたりの入力行数は1日1〜3行に収まります。担当案件が多い日も、その日に触った案件だけを入れます。
30分未満の作業は共通の受け皿に寄せます。5分の作業を記録させると、記録の負担が作業そのものの負担を超えます。
2. 入力の場所を1つにする
表とシステムの両方に入れる形を作らないことです。二重入力は必ず片方に寄り、寄った側だけが正しい状態になります。
Excelの勤務表を残したままシステムを入れると、現場は勤務表を続けます。給与に関わる書類のほうが優先度が高いためです。結果として工数の記録だけが欠けます。
対処は入力の場所を決めてから始めることです。既存の表を残すなら、その表から工数を作る形にします。同じ時間を人が2回入力する設計にはしません。
3. 集計結果を入力者に返す
返す内容は3つで足ります。
- 案件別の投下工数 — 自分が入れた時間が、案件単位でいくらになったか
- 見積工数との差 — 予定に対して実績がどこまで進んでいるか
- 入力の抜け — 記録が無い日、実労働時間と合っていない日
3つ目は督促に見えますが、返すものの中で最も効きます。抜けを知らせないまま月末に管理側が埋めると、記録は管理側の作業になります。
記録が実態と合っているかは、実労働時間との差で分かる
入力が続き始めても、その数字が実態と合っているかは別の確認が必要です。方法は1つで、記録の合計と実労働時間を突き合わせることです。
1日8時間のうち、案件に紐づいた記録が5時間しかない。この場合、差の3時間がどこに行ったかを見ます。
差は「サボり」ではありません。社内会議、移動、見積の作成、問い合わせ対応。いずれも働いている時間で、案件に付け先が無いだけです。
差の大きさは、時間の割合で見ます。
| 項目 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 1人1日の実労働時間 | — | 8時間 |
| 案件に紐づいた記録 | — | 5時間 |
| 差 | 8時間 − 5時間 | 3時間 |
| 月あたりの差(20人・20日) | 3時間 × 20人 × 20日 | 1,200時間 |
| 実労働時間に対する案件の割合 | 5時間 ÷ 8時間 | 62.5% |
この3時間を金額に換算して損失として並べることはしません。案件に紐づかない時間の人件費は、案件に紐づいた時間の単価に含めて回収するものだからです。時間単価を作るときに稼働率を掛けるのは、この回収のためです。
確認したいのは、実態の割合が単価の前提と合っているかです。上の例で案件に紐づいているのは62.5%で、単価を稼働率70%の前提で作っていれば、単価が実態より安く出ています。稼働率を含めた時間単価の作り方は値上げの根拠を原価から作る手順と、価格転嫁が止まる4つの原因に整理しています。
割合が想定した稼働率から離れている場合、見直す対象は記録ではなく業務の配分です。記録の粒度をどう変えても、案件に付け先が無い時間そのものは減りません。
入力の負担を金額に置き換える
「入力の手間が増える」という反対は、金額に置き換えると比較できます。
| 項目 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 1人1日の入力時間 | — | 3分 |
| 月あたりの入力時間 | 3分 × 20人 × 20日 | 20時間 |
| 入力の負担 | 20時間 × 4,800円 | 96,000円 |
| 月あたりの案件工数 | 5時間 × 20人 × 20日 | 2,000時間 |
| 記録しない場合に原価から欠ける労務費 | 2,000時間 × 4,800円 | 960万円 |
入力の負担は月96,000円、記録しない場合に原価から欠ける労務費は月960万円です。差は100倍です。
この比較が成立する条件は、入力が1人1日3分で終わることです。細かい粒度では3分では終わりません。入力が10分かかる設計なら負担は月32万円になり、手間が増えるという指摘は正当なものになります。
入力の負担は設計で決まります。手間が大きいという指摘は、反対意見ではなく粒度を見直す材料として扱います。
粒度は「分けない」ほうを先に決める
粒度の設計は、分ける項目を増やす方向に流れます。分けたい理由はどれも正当で、止める根拠が出てきません。
判断の順序を逆にします。分けない項目を先に決め、残りを分けます。
| 記録の項目 | 判断 | 分けたくなる理由 | 判断を外した場合に起きること |
|---|---|---|---|
| 案件番号 | 分ける | — | まとめると案件別の原価が出ない |
| 担当者 | 分ける | — | まとめると等級ごとの時間単価を使えない |
| 作業種別(設計・実装・試験) | 分けない | 工程別の生産性を見たい | 1日の記録が3〜5行になり、数週間で入力が止まる |
| 時間の刻み | 30分 | 端数まで正確に出したい | 15分刻みは端数の思い出しを生み、入力が翌日に回る |
| 社内業務(会議・研修・事務) | 共通の受け皿を1つ作って寄せる | 内訳を知りたい | 付け先を探す時間が発生し、記録されない時間が増える |
| 移動・待機 | 案件があれば案件、無ければ受け皿 | 実費と分けて見たい | 判断の分岐が増え、記録の仕方が人ごとに変わる |
分けなかった項目は、運用が回り始めてから追加できます。過去の記録までは分かれませんが、以降の記録は分かれます。
細かく始めて止まった運用のほうが、戻すのに時間がかかります。一度形式的になった入力は、粒度を落としても実態に戻るまで数か月かかります。
評価に使わないことを先に決めて伝える
記録の目的を1つに限定します。この記録は案件の原価を出すために取る。それ以外に使わないことを、始める前に伝えます。
目的を曖昧にしたまま始めると、記録は実態より短い方向にずれます。後から「評価には使わない」と伝えても、短く入力する習慣はすでにできています。
伝える内容は3つに分けて決めます。
- 何に使うか — 案件別の原価と粗利の算出、見積工数との比較
- 何に使わないか — 個人の評価、査定、残業の抑制
- 誰が見るか — 工数は誰まで見えるか、金額は誰まで見えるか
3つ目を決めていないと権限の設定が後回しになります。金額を見せたくない担当者にも入力は必要なので、見える範囲を分けられる形にしておきます。
なお、ここで扱う工数の記録は案件の原価を出すためのものです。労働時間の管理を同じ記録で兼ねる設計にすると、目的の限定が成立しなくなります。
始める順序は案件番号、当日入力、締めの日
順序を守れば、記録は1か月で回り始めます。
- 案件番号を採番する — 見積を出す時点で番号を作る。番号が無い期間の記録は、後から案件に紐づきません
- 当日入力に固定する — 1日1回、その日に触った案件だけを入れる。まとめ入力を認めると、記録が思い出しになります
- 締めの日を決める — 締めた後に出てきた記録は翌月に回す。締めを動かすと前月の労務費が変わり、月次で比較できなくなります
この3つは案件別の粗利を出す手順と、集計が合わなくなる3つの原因で挙げている月次運用の最低限と同じ順序です。工数の記録は、そのうち2つ目にあたります。
最初の1か月は集計の精度を見ません。見るのは記録の抜けだけです。全員が毎営業日入力している状態を作ることが、最初の1か月の目標になります。
精度を先に求めると、設計は粒度を上げる方向に動きます。抜けを埋めるほうが金額への影響は大きいです。記録が無い1人の8時間は、粒度をどれだけ細かくしても埋まりません。
Set Plan は日々の予定と実績を案件単位で入力し、投下工数を自動集計して実績台帳で工数・原価・粗利・粗利率を一覧できます。案件ごとに時間単価と予算を持つため、入力した時間がそのまま労務費になります。現在の入力方法と粒度をお伝えいただければ、どこを落として始めるかをご案内します。